「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にすることはありませんか?
“DX “は2004年に誕生した造語と言われています。しかし、昨今の新型コロナウイルスの発生で注目を集め、一気に経営のキーワードになりました。
バズワードになったとはいえ、DXとは何か、IT化とはどう違うのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、今やバズワードとなったDXの基本を解説します。
DXとは?

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、企業がAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータなどのデジタル技術を活用して、ワークフローの改善や新しいビジネスモデルの創出だけでなく、レガシーシステムからの脱却や企業文化の変革につなげることを意味します。
DX推進は、変化の激しいこの時代に市場競争力を維持するために、すべての企業にとって重要なテーマとなっています。
DXの重要性は?
経済産業省は、強い経済を維持するためにDXの推進を推奨しています。DX推進は個々の企業にとって重要なだけでなく、国全体にとっても必要不可欠なものです。このような観点からDX推進の必要性を考え、企業の意思決定を行いましょう。
DXとITの違いは?
結論から言うと、DXとIT化を明確に区別することは難しいです。
最近はITに代わってデジタル化という言葉が使われることが多くなってきましたが、ITとDX化はほぼ同じ意味と考えてよいと思います。強いて言うならDXの方が若干意味範囲が広いです。
ITの第一の目的は、業務の効率化です。例えば、これまでノートに数字を書き、電卓で計算して帳簿をつけていた会社が、パソコンを導入し、表計算ソフトや会計ソフトを使うようになりました。
その結果、経理業務が短時間で完了するようになり、ITによる業務効率の向上に貢献しました。仕事の基本的な内容は変わらないが、ITによって仕事の効率や生産性が大きく向上しました。
一方、DXの「X」は「Transformation」の略ですから、その後に業務の「改革」が続く必要があります。例えば、会計ソフトのデータを顧客管理やコスト管理にフィードバックして活用するワークフローを作り、組織の “変革 “につなげることがイメージできます。
もちろん、業務効率の向上は “DX “の重要なテーマです。ビジネスモデルや業務を “変革 “し、コスト削減による競争力向上や、リモートワークなどの働き方改革につなげることが目的であれば、それは “DX “と呼ぶことができます。
ITは “戦術”、DXは “戦略”」とよく言われます。DXは、デジタル技術をいかに企業の戦略やビジョンに落とし込むかがポイントになります。
DXのメリットは?

DXを勧めると以下のメリットが得られます。
1.グローバルな市場に対応できる
2.市場変化に対応できる
3.不測の事態に対応
4.生産性が向上
一つずつ解説していきます。
グローバルな市場に対応できる
業務インフラのシステム改定だけでなく、企業のビジネスプロセスにも大きな変化をもたらします。
業務の効率化が促進されるだけでなく、日々の業務プロセスそのものが大幅に効率化されることが期待されます。
また、この変革により、企業はこれまで提供できなかったサービスや製品を提供できるようになり、競争力の強化につながり、市場のグローバル化にも対応できるようになります。
グローバル化は今やあらゆる産業で必要なことであり、協力関係の強化は必然であることを理解しておく必要があります。
市場変化に対応できる
市場の変化は常に起きており、DX推進が進めば、その変化に柔軟に対応することが可能になります。
既存のシステムでは分析できなかった顧客動向などのデータを蓄積・活用することで、企業はより顧客ニーズに合った商品やサービスを提供が可能となります。これを繰り返すことで、企業は市場に対応した経営を行うことができます。
不測の事態に対応するため
近年、日本では気候変動などの影響により、自然災害の発生頻度が高まっています。また、地震大国である日本では、不測の事態による事業停止のリスクを回避することは、企業にとって重要な経営課題となっています。
DXを推進し、データの冗長化やITシステムの導入によりテレワークを実現する環境を構築することで、自然災害により市場や環境が大きく変化した場合でも業務を継続することができ、企業経営への影響を最小限に抑えることができます。
このように、DXの推進はBCP(事業継続計画)対策としても有効です。
生産性が向上
DXを推進する際には、自社の業務フローを洗い出し、無駄が発生している部分や改善できる部分を見つけるというプロセスを踏みます。
この過程で、ムダな業務を改善・自動化することで再編成し、生産性の向上が期待できます。
無駄な業務に割り当てられていたリソースを、社内でより重要な業務に振り向けることができ、企業のさらなる成長も期待できます。
また、ワークフローの明確化により業務改善が実現できれば、従業員の業務負担の軽減にもつながり生産性が向上します。
新商品やサービスの開発につながる

新商品やサービスを開発するために、顧客情報の収集・分析にITが活用されます。
お客様のニーズを満たす製品を市場に投入するためには、「お客様がどのような製品を求めているか」を分析することが不可欠です。
収集した顧客情報を分析し、市場や顧客のニーズを的確に把握できれば、顧客が求める新しい製品やサービスを開発することができ、企業の成長や顧客満足度の向上が期待できます。
DXを進めることで、市場の変化により柔軟に対応できる環境が整います。これにより、これまで実現できなかった業種での新製品・新サービスの開発が可能となり、事業拡大の機会を提供が可能となります。
DXのデメリット

日本はDXが進展しにくいと言われています。その理由として以下のデメリットがあるためです。
一つずつ解説していきます。
既存システムのブラックボックス化
多くの日本企業は終身雇用制を採用しており、技術者の企業間移動を妨げてきた。そのため、新しい技術や業務手法を取り入れる機会が少なく、古いやり方が根強く残っており、システムの老朽化につながっています。
また、各社が導入したシステムは、他社のシステムとの差別化を図り、自社に適したものにするため、独自にカスタマイズされてきました。
その結果、拡張性、保守性が悪化した。カスタマイズを重ねたシステムから新しいシステムへの切り替えが難しくなり、結果的に既存のシステムを使い続け、さらに老朽化が進むという状況になっています。
DXに対応できる人材不足
企業がデジタルトランスフォーメーションを進めようと思っても、関連する専門知識を持った人材がいなければ、実現は難しいです。総務省の「情報通信白書(2021年版)」によると、DX推進の最重要課題は「人材不足」となっています。
デジタル技術が日々進化する中、優秀な人材の確保が難しくなっています。企業では、「自社で人材を育成したいが、育成する人材がいない」「外部から新規採用しようとしても、求める人材が見つからない」などの理由で、人材不足の解決に苦慮しています。
企業の理解不足
経営層を含めたDXへの理解不足、DX推進の重要性の認識不足も課題として挙げられます。
「DX=デジタル化」と誤解し、業務の一部をデジタル化しただけで満足してしまい、DX推進を終了してしまうケースもあるようです。
経営者がDXを正しく理解し、推進する強い意志を持たなければ、現場への意識浸透は望めません。経営層がDX推進を適切に指示できなければ、業務が滞るだけでなく、部門間の連携も難しくなります。
例えば、システムを利用する業務部門(営業、設計、人事など)とシステムを作るIT部門との連携がうまくいかなくなりDX化が失敗します。
作業部門がシステムに求める機能をIT部門が正確に把握していなければ、作成したツールやシステムは利用されません。
また、部門ごとに異なるシステムを導入しているケースもあり、そのような企業では特に部門間の連携が難しくなります。
中途半端なデジタル化の進展
多くの日本企業では、デジタル化は部分的にしか完了していません。
典型的な例は、新システムをレガシーシステムと並行して運用している場合です。
新システムの統合に必要な時間と労力に加え、新システムのメリットがレガシーシステムの運用コストで相殺されてしまうこともあります。
このような状況では、デジタルトランスフォーメーションは達成できても、それに伴う生産性の向上は見込めません。
AmazonのDX成功例を紹介
“DX “の世界的な成功例と言われるアマゾン・ドット・コム。アマゾンはもともと、インターネット上で本が購入できるウェブ書店としてスタートした。アマゾンの登場により、街の書店は経営破綻しました。
しかし、アマゾンの商品は本だけにとどまらなかった。おもちゃや電化製品など、アマゾンの品揃えは非常に豊富で、今や地球上のあらゆるものが購入できます。
では、アマゾンは何を変えたのでしょうか。
アマゾンの登場により、消費者はインターネットを通じてアマゾンのホームページから様々な商品を購入ができるようになりました。
つまり、アマゾンは “デジタル化 “によって、「消費者に商品を売る」というサービスや「お店に買い物に行く」という消費行動を大きく “変身 “させたのです。
またアマゾンビジネスのデジタル化によって他者との競争優位性を獲得しました。
例えば、アマゾンは2012年に「ワンクリック」機能の特許を取得しました。
これは、顧客がワンクリックで商品を購入できる機能で、何度も注文する消耗品などに有効な機能です。
その後、「ビジネスモデル特許」という言葉がよく知られるようになりましたが、「ワンクリック特許」はその代表的な例です。
また、アマゾンは、商品ページの下部に「よく一緒に購入されている商品」「この商品を買った人はこんな商品も買っています」といったフレーズとともに、関連性の高い商品を表示する「レコメンド機能」をいち早く取り入れた。このレコメンド機能の精度は、AI技術の進化とともに、年々向上しています。
近年は音楽配信や動画配信(アマゾンプライム)などの事業にも力を入れており、これは従来のレンタルCDやDVDなどのサービスをデジタル化したものです。
Amazonは、消費者の行動、販売のアドバイス、商品・サービスを「デジタル化」によって大きく「トランスフォーメーション(変革)」しました。Amazonが「DXのお手本」と言われる理由が、このことからも分かります。
まとめ
ITトランスフォーメーションは、デジタル技術を利用して効率化を図り、既存のプロセスを強化することです。これに対し、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、製品、サービス、ビジネスモデルの変革が特徴です。
したがって、DX推進プロジェクトの初期段階では、「どのような製品・サービス・ビジネスモデルを目指すのか」を検討する必要があります。また、DXはCXの向上といった効果も狙っていることを念頭に置いておく必要があります。